堀川歯科クリニック(京都市上京区)
T.Kさん(歯科衛生士)

介護の知識がない方でも、「訪問介護」や「在宅ケア」といった言葉は、耳にしたことがあると思います。

歯科の世界でも、歯科医師や歯科衛生士が、通院困難な高齢者の自宅や高齢者施設を訪問して診療を行う「訪問歯科」が増えているのをご存じですか?

「訪問歯科」って、一般の歯科診療とどこが違うの? どんなやりがいがあるの?
そんな疑問を持ちながら、この仕事に魅せられた堀川歯科クリニックの歯科衛生士T.Kさんに、お話をうかがいました。

※訪問歯科とは?

従来は医療機関で患者さんを診ていた歯科医師や歯科衛生士が、通院困難な高齢者の自宅や高齢者施設に往診するシステムです。
診療の対象となるのは、「通院困難な方」と決められています。訪問歯科は、近年増加傾向にあり、虫歯や歯周病などの治療や入れ歯の作製・修理、口腔ケアなどに対応しています。また、誤嚥性肺炎の予防や食べる楽しみの回復など、口腔機能のリハビリテーションも行います。

– プロフィール –

名前:T.Kさん
勤務先:堀川歯科クリニック(京都市上京区)
職種:歯科衛生士
入社年度:2014年 現在5年目
滋賀県出身。高校卒業と同時に歯科衛生士養成の専門学校へ。
新卒で地元の歯科医院に入職後、堀川歯科クリニックに転職、今では訪問歯科の衛生士として、第一線で活躍されています。

進学校から衛生士専門学校へ ~母の助言が運命を変えた!

「もともと歯科衛生士の仕事に興味があったわけじゃないんです、実は、人間の歯が何本あるのかさえ知らない子でした」

末っ子で人見知り。そんな彼女が、「歯科衛生士」という国家資格を取得し、患者さんとの距離が近い「訪問歯科」の仕事に巡り合うまで、どんないきさつがあったのでしょうか。

高校時代は進学校の特進クラスに在籍していました。まわりは国公立大学を目指している同級生が大半だったそうです。

「私自身も大学へ進学するつもりでした。でも、高校3年の秋、歯科衛生士の専門学校の学生募集の広告を、母がたまたま見つけて、『歯科衛生士ええんちゃう?』と言ったんです」

これが、運命の一言に。実は、お母様が昔、歯科衛生士をしていたことがあり、この仕事のことをよく知っていたので、結婚して子どもを産んでも続けられるし、どこででもできる、とアドバイスしてくれたそうです。

「どこの大学に行こうか悩んでた時期だったんですよ。当時、兄が大学生で就職活動をしていたんですが、リーマンショックの影響で、すごく就職が難しいと言ってたのを覚えてます。高校を卒業して、流されるまま大学で4年間過ごして、就活の時に、悩むよりは、確実な国家資格を取った方が、将来的には良いのかなと思いました」

進学校の特進クラス、高校3年の秋、突然の進路変更に、担任の教師も驚き、「考え直さないか?」と説得されたそうです。周りの友人と違う道を選ぶことに不安はなかったのでしょうか?

「不安はそこまでなかったです。大学のキャンパスライフに憧れはあったけれど、自分はあまり前に出られない性格なんです。自分で自分をアピールするっていうことが苦手で、就活の時に自分を売っていくことができないだろうと思ったので、確実なほうを選びました」

最初の就職で味わった挫折

専門学校卒業後、地元の歯科医院に就職します。月に一度、勉強会のある歯科医院を選びました。

「自主性がないので、嫌でも勉強しなければならない環境のほうが、自分にプラスになると思ったんです」

冷静な判断力が、若いころから彼女には備わっていたんでしょうか。そうやって選んだ就職先だったのですが、その歯科医院では、想像していた以上の試練が待ち受けていました。

「専門学校時代から、歯科助手のアルバイトをしていましたが、社会人1年目は、時間のなさに驚きました」

朝は8時半に出勤して、自宅に帰るのは夜9時を過ぎる毎日。1年目だから当然、と割り切りつつも、「家に帰ってからも、仕事のレポートをやらなければならないので、いつも眠たかった。」と当時を振り返ります。

「また、直属の先輩はとても積極的で、エネルギッシュ、私とはちょうど正反対の性格ですね。そのこと自身は構わないのですが、私にもそれを求められる。『同じ色に染まってね』という空気が充満していて、『性格まで変えないといけないのかな?』と少し悩んでいました」

自信を失い、ズタズタの状態で堀川歯科へ

そもそも「訪問歯科」に興味を抱いたきっかけは何だったのでしょう?

「私は祖父と同居していたのですが、その祖父が誤嚥性肺炎に罹ったことがあって、そのつらさや大変さを身近で見たことが、興味を持ったひとつのきっかけです」

最初に就職した歯科医院の院長先生にも、「訪問歯科」について、相談してみたことがあります。しかし、その結果は……。

「訪問歯科の衛生士は、ベテランがやる仕事、あなたみたいな新人が行っても、役に立たつ訳がない!!」「そもそも、あなたに何ができるの?」

返ってきたのは、心をえぐられるような厳しい否定の言葉でした。

「あの時は、本当に自分に自信をなくしました。“あなたに、何ができるの?”と何度も厳しく怒られました。自分がやりたいと思ったことを全て否定された感じがして……」

否定の言葉に打ちのめされながらも、次に就職するなら「訪問歯科」と密かに決意していました。そして退職後、堀川歯科クリニックに出会います。とはいいつつも前職での挫折で、すっかり自信を失い、「本当は、衛生士に向いてないのかな?」とズタボロの精神状態で、不安の方が大きかったといいます。

緊張しながら面接に臨んだ彼女は、「院長先生がとにかくフランク!」という印象を受けました。

「面接では、院長の籾井(もみい)先生に『訪問歯科をやりたい。でも2年目の衛生士で、何ができるかわからない』と正直にお伝えしました」

面接時間は短く、あっという間に終わり、晴れて入職が決まりました。

プレッシャーとは無縁な環境、適度な距離感を保ちながら働ける職場

初めての転職で、当然ながらTさんの中でも不安はあったようです。入職当時を振り返ってもらいました。

「働き始めて間もないころ、私は、ほんと、何もできなかったです。とにかく無我夢中でした。新卒ではなかったので、早く一人前にならなきゃって焦っていたのを覚えています。先輩も忙しいので、全てのことに対して、イチから聞ける時間もなく、先輩の仕事を見て覚える。そんな毎日でした」

「ただ入職して、3カ月くらいたった時に、なにげない会話の中で、先輩に『いい人が来てくれてよかった』と言ってもらえたんですよ。こんな何もできない今の私に、こんなふうに言ってくれるんだと……」

転職すると、医院ごとで当然違いがあるので、普通は戸惑うこともあるはず。ところが堀川歯科では……。

「衛生士としては2年目の未熟者だったので、もっと、細かく指導されるのかなって思ってたんですけど、ある程度、尊重されているというか……新人扱いされなかったんですよね。良い意味で、自由にやらせてもらえました。プレッシャーがなくて、感覚的な話なんですけど、すごく気持ちが楽でした」

なるほど、良い意味で、期待を裏切られたようです。また、意外性の多い職場だと言います。

「これも、すごく感覚的な話なんですけど、基本的に、いろいろなことをあんまり強要されないんですよ。自主性が尊重される雰囲気はあります。たとえば、資格取得であれば、自分はこれを学びたい!っていうのを先生に相談すると、どんどん参加してくださいって言ってもらえます。興味のある分野に対しての医院からのサポートは、本当にありがたいです」

また、院長先生が女性なので、お子さんのいるスタッフへの理解やサポートがあるそうです。

「たとえば、皆で早く仕事終わらせて、早く帰ろうって、いう空気があるんです。もともと、17時で診察が終わるので、他の医院と比べて、終わるのが早いのはありがたいです。」

「院長自身も、お母さんですし、子育て真っ最中のスタッフもいるので、平均すると、皆、18時半くらいには、帰ってるんじゃないですかね」

院長先生は、患者さんからも人気が高いそうです。院長先生はどんな方ですか?

「私が言うと、語弊があるかも知れないですけど、院長は、院長っぽくないんですよ(笑)。私が抱いていた院長像って、ものすごく威厳があって、威圧的なイメージだったんですけど、うちの院長は、とにかくフランクというか、細かいことはあまり言わない。ある程度、任せてもらっている感じがします。
それに、必要以上に干渉しない空気っていうんですかね。適度な距離感を保ってくれるので、居心地がとても良いんです」

必要以上に干渉せず、スタッフ同士が適度な距離感を保てる「大人の職場」に、自分の居場所を見つけました。 さらに続けます。

「何か思うことを伝えても、あまり、否定されることってないんですよ。とりあえず聞いてくれて、受け止めてくれる。院長は、懐が深いと思います」

Tさんは、患者さんへの接し方でも、院長先生から多くのことを学んでいると言います。
たとえば、往診の患者さんは高齢の方が多く、中には認知症の症状が出ている場合もありますが、院長先生は、どんな方に対しても誠実に対応されているそうです。

「相手は、自分よりも長く生きてこられて、尊敬すべき存在なのに、『どうせわからへんやろうと思って、子どもみたいに扱うのは気をつけましょう。言葉遣いもきちんとしましょう』というのが院長の信念。私も気をつけないといけないな、と常に思います」

患者さんとのつながり

念願叶って、「訪問歯科」の最前線で活躍する今、働く前に描いていたイメージとのギャップを聞いてみました。

「大変なことももちろんあります。イメージしていたよりも、事務作業は多かったです。実際の衛生士の業務以外にも、施設訪問のスケジュール調整や、ヘルパーさんとの情報共有まで、業務は多岐にわたります。
訪問歯科の衛生士としての仕事は、在宅の場合だと、1日8件~10件ほど患者さんの自宅を回ります。施設に行くと、多い時で20人~30人をみる時もあります」

施設訪問の場合、看護師さんがいるので、医療の専門用語も飛び交い、医療知識も当然求められます。訪問歯科ならではの大変さもある一方で、この仕事だからこその楽しさもあると語ります。

「歯医者に行きたくても行けない方だからこそ、『来てくれて、話せるだけでもうれしい!』と喜んでくれるのは、ありがたいですよね。また、歯が痛くて諦めている人が多いので、“役に立っている”という実感があります」

また、口の中には、さまざまな病気の兆候が出るそうです。

「たとえば、脳梗塞の前兆も、口の中に出たりするんです。そういった情報を医療専門職の方と、密に情報共有していく中で、患者さんの健康のサポート、れっきとした歯科治療をできている実感があるんです」

訪問歯科について語る時、すごく熱い表情を見せるTさん。日々の仕事が充実していることが伝わってきます。最後に、今後は、こんな人と一緒に働きたい、こんな人に来てほしいという希望があれば。

「ありきたりですが、優しい方と一緒に働きたいです。往診を行うのは訪問歯科に限ったことではないですが、患者さんは、何らかの理由で訪問歯科を依頼されています。そういった患者さんに対して、寄り添って、気配り、心配りができるような気持ちの温かい方と一緒に働きたいです」

上記のインタビューを読んで、少しでも興味を持った方は、こちらからお問い合わせください。

院長先生から一言

4年前に、面接で「訪問歯科に興味があります」と言ってくれたことを今でも覚えてます。最初は、若かったので、大丈夫かな?と思っていましたが、今では、安心して仕事を任せています。静かに実直に仕事に取り組むのが彼女の素晴らしいところ。最近は、自主的に資格取得も頑張ってくれています。彼女がどこの医院に行っても、通用するくらいのスキルを身につけられるよう、出来る限りサポートしていきたいと考えています。

取材部から一言

インタビュー中、終始、緊張されながら、「私でいいんでしょうか・・・」と謙遜する姿がとても印象的でした。残業が多くて精神的にしんどい職場から、転職を決意して、自分の居場所とやりがいを見つけるまでのストーリーに、取材部も元気をもらえました。今年、ご結婚され、滋賀県から、堀川歯科クリニックへ通われるそうです。Re Workingは、Tさんと堀川歯科クリニックをこれからもずっと応援しています!