今回お話を伺ったのは、現場で働きながらも介護事業所向けにマニュアル作成をスタートさせたTOMIE(トミー)の吉田さんです。

介護という業界に入ったきっかけから、現場を経験してきたからこそ見える課題、提供するサービス内容を伺ってきました。

プロフィ―ル

TOMIE(トミー)代表

名前:吉田 好志さん

認知症対応型共同生活介護3年、特別養護老人ホーム1年半の勤務を経て、2018年8月から地域密着型デイサービスに勤務中

保有資格:介護福祉士、社会福祉士、重度訪問介護

介護の道に進んだのは24歳の時

新卒から介護業界に入られたのでしょうか?

「いえ、そうではないんです。学部も福祉系ではなくて文学部でした。新卒で働いたのは広告制作会社です。コピーライターにあこがれて。半ば弟子入りのように働かせてもらったんですが、お役に立てずコピーライターの道はあきらめました…」

コピーライターですか…!
驚きです。ではどんなきっかけがあって介護の業界に?

「きっかけは大学時代の介護ボランティアです。大学の一般教養科目で障害福祉のことを扱う授業があったんです。その授業の中で介助ボランティアの募集があって、それに参加したことが介護業界に興味をもったきっかけです」

ボランティアというと大変なイメージを持ちがちだと思います。文学部という福祉系とは全く違う学部だと、参加することに抵抗はなかったですか?

「ありました。もとから強い興味があったわけでもなかったですし…。ただ先生の話を聞いているうちに人権や福祉について、自分の言葉で考えてみたいと思うようになって。じゃあ、まず経験してみることが必要だと思いボランティアに手を上げました。また私が受講した授業では、毎回のようにあちこちからボランティア募集がかかっていたんです。困っている人からの募集を無視し続けることに罪悪感を抱くようになったことも正直なところです」

実際に体験してみてどうでしたか?

「面白かったです。でもなによりも印象的だったのは、「嫌ではないな」というところなんです。排泄関係のことも手伝うことがあるし、ボランティアという位置づけながらも体力も使う。それでもそれが「そんなに嫌じゃない」というのが新鮮でした。ボランティアは、重度障がい者の在宅生活をサポートするものだったんですけど、はじめてしばらくして「週末にアルバイトで来ない?」と誘われて、重度訪問介護という資格を取って平日のボランティアと週末のアルバイトという形で4年間続けました」

4年間ですか⁉授業がきっかけでそこまで長くできるのもすごいですね。
でも学生時代のいい経験ですよね。

介護業界は第二志望だった

就職活動ではコピーライターを目指していたということですが、介護の世界に入ったのはいくつの時だったのでしょうか?

「介護の道に進んだのは24歳の時です。大学時代はコピーライターにあこがれて、その道を目指していました。でもその道が厳しく狭いものだとも分かっていたので「これがだめなら介護をしよう」という思いはずっとありました。
運よく広告制作会社に雇ってもらえましたが早々に辞めることになり、少しフラフラして(笑)、24歳の時に高齢者の介護施設で働き始めました」

精一杯やっても限界がある

実際に介護現場での仕事はどうでしたか?

「しんどいことも多いですが、楽しいこともあります。仕事の中で「もっとこうしたらいいんじゃないか」とか「こういう人にはこんなやり方はどうだろう」とか、小さいんですけどアイデアが生まれて、それを試すことができて。そいういうところが楽しいですね」

それでもやはり人の入れ替わりの多い業界だと思いますが、やめたいと思ったことはありましたか?

「そうですね、今の職場で働く前は大きな老人ホームに在籍していたのですが、人手不足で辛かったです。生活相談員という職種に配置転換されてから、さらにしんどくなってしまい休職してしまいました。周囲の方々はとても良くフォローしてくださったのですが、一人部署で仕事を処理しきれなくなってしまって…結局職場に戻る勇気がなくて、そのまま辞めてしまったんです。でも、ご縁があって今の職場にお誘いをいただいて、介護の仕事を再開することができました。今は落ち着いて働くことができています」

そうだったんですね、やはり大変なことの多い職場ですもんね。
介護業界全般に、従業員の入れ替わりは多いのでしょうか?

「従業員の入れ替わりは事業所によると思います。人手が欲しいのはほとんどの事業所で一緒だと思うのですが、傾向として、バタバタした現場では、せっかく入ってくれた新人さんをどうしても大切にしきれないところがあると思います。受け入れる先輩職員が精一杯やっても、やっぱり限界はあるので…そうなると、新人さんは定着しないし、今いる職員も疲弊してしまうしで、入れ替わりがどんどん加速していく印象です」

なるほど、現場によってバタバタの度合いが違ってくるという事ですね。
そこは現場で働かないとわからない課題かもしれませんね。

本当はしたい のに 忙しくてできないこと をなくしたい

現場で働いていると課題が多く見えてくると思いますが、「マニュアルを作成する」という想いに至るきっかけ的なエピソードはありますか?

「サービスそのものを思いついたのは、前職の退職を決めたときでした。次の仕事を検討するにあたって、これまでの仕事を振り返り、介護の仕事をしている人たちの役に立てることはないかと考えていました」

「介護現場で新人さんを受け入れるにあたって、その現場のローカルルール(物の場所や、細かな役割分担など)を、同じ現場の先輩が教えなければならない場面は多くあります。ところがその先輩方が、慌ただしい現場で自ら走り回りながら新人さんに丁寧にわかりやすく教えるのは難しいことです。そこの負担をなんとかできないかと考えました」

確かにそうですね。
ただでさえ限られた時間の中で動いている現場の方にとって、新しい負担が増えるとなるともっとハードになってしまいますね。

「そうなんです。新人の方が経験者であったとしても、事業所ごとの仕事の流れに馴染むまでは苦労が伴います。そういう時に、現場に馴染むために必要な知識をまとめたものがあれば、教える側、教わる側双方にとって負担が軽くなるのではないかと思っています」

「マニュアルがあったから助かった、という経験からこのサービスを考えた、というよりもかつて新人として私が大変だと感じたことや、新人でなくなってから感じた「新人さんを大切にすること」の難しさが根本にあります。私が新人指導の中核として動き回ったわけではないのですが、慕っていた先輩職員が新人さんに十分に指導できずに悩んでいた姿が印象に残っています。かつての先輩のような「したいのにできない」という苦しさを少しでも減らせたらと思っています」

マニュアルを人に頼むと現場が楽になる。

TOMIEで提供するマニュアルサービスは具体的にはどんなものでしょうか?

「事業所ごと、ひいては施設の部署(フロア)ごとに取材をして、現場の仕事に馴染むために必要な知識をまとめることが特徴です。新人さんの受け入れに当たって、新人さんも、先輩もいつでも気軽に参照できるように、ポケットサイズに収まるようなまとめ方にしています」

たしかに忙しい現場で気になるとき、すぐに使えなかったら不便ですよね。
先程現場によって違うルールがあるとあったんですが、現場で内容の更新は可能でしょうか?

「前提として、現場に則した使いやすいマニュアルを、現場の人たちで作れたらそれが一番だと思っています。ただ人手不足に悩む現場でそのようなものを作る時間を捻出するのは困難なことです。そこで私がマニュアル作成のお手伝いに入ります。そのうえで、内容の更新作業を現場の皆さんでもできるように、込み入った編集方法は用いず、シンプルなExcelファイルでの編集を行います。作ったマニュアルを納品しておしまいではなくて、どうやったらそのマニュアルを現場で活用できるかまでフォローしていきたいと思っています」

それぞれの現場に合わせて作成できるのは嬉しいですね。現場で働いていたからこその説得力を感じます。
今後の目標はありますか?

「なにせまだまだスタートしたばかりなので…今後はもっとマニュアルの有用さを発信していきたいと考えています。また、TOMIEとして収益事業にこだわらず「介護をもっと、簡単に」するために、身の丈でできることを広げていきます。TOMIEの活動を様々な角度からたくさんの人に知ってもらいたいですね」

「時間はかかったとしても「現場の人たちを楽にする方法の一つとして、マニュアルがあるんだ」と証明していきたいです」

取材部から一言

お話を伺って、TOMIEのマニュアル作成のサービスは、介護業界で働く“当事者だからこそ気付ける“、理にかなった発想だと感じました。吉田さんの気持ちがこもったサービスで、新人の方がスムーズに業務に慣れることが出来れば、皆が助かると思いました。リワーキングは今後もTOMIEを応援しています!