京都の北山通を歩くと100年以上続く老舗洋食店やお洒落な雑貨屋さんが目に入ります。文化的な施設も多く落ち着いた雰囲気の北山エリア。今回紹介するのは、この北山で歯科医院を開業して44年の小佐々晴夫先生です。

小佐々先生は地域密着型で、健康志向型医療・予防歯科に取り組んでいます。もう10年以上前から、地域の子ども達の歯科校医として務めています。今回のインタビューでは、子どもの不正咬合の問題に取り組む理由や予防矯正での働き方を伺います。

健康志向型医療とは

早速ですが、小佐々先生が「予防」に力を入れられたきっかけを教えて下さい。 

「今までの医療は、 病を治す 結果処理をする西洋医学が主体の時代でした。西洋医学は治しの医学(対処療法)で、予防は伝統医学なんですよ。今は治すばかりで、莫大な医療費がかかり社会問題です。これからは、病気を治すことも大切ですが、それ以上に“病気にならないようにすること”(健康を保つこと)が重要になってきます。歯科医療においても本質は同じで“予防”に力を入れることは歯科医師の使命だと考えるようになりました」

小佐々先生は、「不正咬合の予防」という分野に力を入れていますが、この分野に関心を持つきっかけは、何があったのでしょうか?

「開業当初、歯並びが悪いことで歯周病や虫歯になるケースを多く診てきました。また、歯並びが原因で咬み合わせが悪くなり、矯正治療を必要とするケースもありました。昔の矯正治療では、永久歯を抜歯しなければならない症例も多く、『不正咬合』を治したいと思いました」

咬み合わせが悪い事で矯正治療が必要になり、抜かなくても良い永久歯を抜かなければならない。歯科医師として辛い思いがあったと当時を振り返ります。

「不正咬合という問題を考えるとき、子どもの頃からの歯並びが大きく影響します。子どもの矯正治療の臨床経験を積む中、成長発育期の段階で12歳ごろまでに正しい治療を行えば、永久歯を100%非抜歯で治療できることが分かってきました」

予防矯正に取り組む理由

そして今から13年前、子どもの頃からの正しい咬み合わせを啓発する小佐々先生に、地域のE幼稚園並びにR小学校から歯科検診の依頼が来ました。

幼稚園児と小学生の歯科検診を担当してみてどのような状況でしたか?

「検診の現場で園児や小学生を診ると、 “歯並びの異常”が予想より多いことに気づきました。既に歯並びが乱れている子もいれば、今は見た目が大丈夫でも、将来的に歯並びが乱れる可能性がある子もいます」

それは、子どもたちの生活環境の変化があるのでしょうか?

「勿論それはあります。食べ物も昔に比べると柔らかいですし、今の子ども達は基本的に咬む回数が少ないです。子どもの口呼吸や舌の悪い癖、うつ伏せ寝など、生活習慣の乱れは原因の一つです」

多くの子どもたちを診療していく中で、子どもの予防矯正にさらに力をいれていきたいと思うようになったと言います。

「大人の不正咬合の問題もそうですが、もっと本質的なことを考えたとき、子どもの頃から、きちんとした歯並びをつくることができれば、より“健康に導く” ことが出来る。それは生涯の健康にも直結する。これが、私の歯科医療のテーマになりました」

ある医師との出会い

実際に診療をする中で、先生が大切にしていることを教えて下さい。

「私の診療方針には、Dr. Beach * に深く影響されています。Dr. Beachの医療に対する考え方は、予防の考え方と相通じる部分があります。1つ目が、“計画診療”。患者さんに対しての情報提供は重要です。情報提供の際は、落ち着いて患者さんが相談しやすいようにしています」

「2つ目が、“水平位診療”です。昔は歯科医師が立ちながら治療するのが当たり前でした。Dr.Beachは、術者が細かい作業を正確に持続して行えるように患者さんを寝かせて、歯科医師・歯科衛生士が椅子に座って診療を行うことを推奨しました。患者さんはリラックスして治療を受ける事ができます。歯科医師は自分の指を正確にコントロールでき、結果的に医療の質が高まります」

※Dr.Beach(アメリカ人歯科医師)が考案した教育方法や新しい診療体系(水平位診療)は、日本、アメリカほか7カ国に積極的に導入されています。また、口腔保健活動として、 WHO(世界保健機構)の口腔保健専門委員会委員、FDI(世界歯科連盟)歯科診療委員会顧問などを歴任しました。

子ども達と向き合う

ここからは小佐々歯科診療所での「働き方」について、具体的に聞いていきます。全体の患者さんの中で、中学生以下の子どもの割合が約4割と多いそうで、子どもの診療をする上で大変な所は具体的にどんな部分でしょうか?

「先日、5歳の子が矯正治療で、お母さんと一緒に来院しました。ベッドに移動して、いざ治療を始めようとすると泣き出して手が付けられない状態。若手の衛生士も困っていました。子どもにとって口を触られるという状態は、不安で怖いんでしょう。子どもの対応は勿論、難しいんですけど、優しさが必要ですね」

では逆に、どんな時がやりがいになるのでしょうか?

「先輩の衛生士が、その5歳の子に対して、可愛いキャラクターのエプロンを使ったり、怖がらないようにうまく声を掛けることで、その子も安心して治療を進めました。子どもはよく理解して、寄り添うことが必要です。やはり予防矯正の部分は、歯科医師だけではできない事を衛生士・アシスタントと協力して長期にわたって治療を進めていくこと。子どもと一緒にゴールに向かっていけることはやりがいですよね」

長期間ということですが、大体どれくらいの期間、通うことになるのでしょうか?

「症状によって、治療期間は一概に言えませんが、原則は成長が止まる15歳~16歳までは、見届けることになります。長期間、愛情を持って接すると子どもにも伝わるので、心が通じ合うと楽しいし、そこは嬉しいですよね」

子どもの気持ちを察して、動機付け出来るようにサポートする気持ちが必要という先生、診療中も独特のシステムを取り入れていると言います。

「先ほどDr.Beachの話をしましたが、効率的に診療をするためにフォーハンドシステムを取り入れています。歯科医師とアシスタント4本の手によって治療を体系化した仕組みで、医師は安定した手順のもと施術を行います。手順が決まっているので、アシスタントは医師の施術を読むことで仕事がしやすいし治療時間の短縮につながります」

小佐々先生は、30年前に有志を募って勉強会を設立。子どもの健全な咬合育成を研究して研鑽を積み重ねています。定期的に歯科医師向けに講演される機会も多いと言います。

「私がやってきたことを次の世代に引継いでいかなければならないと考えています。今後の歯科医療のためにも、自分の臨床経験を若い医師に共有することが大切だと思うんですよね。もう僕も良い歳なんですよ(笑)」

今後の歯科衛生士の存在意義

最後に、若手の歯科衛生士にメッセージをもらえますか?

「歯科衛生士は、これからの時代には大変意義のある素晴らしい仕事です。 予防歯科の分野では最先端の職種で益々その重要度は上がります。この資格を生かして、予防歯科の分野で活躍してほしいと思います」

取材部から一言

先生とお話していて、「診療中に子どもと接することが生きがいなんだよ」と優しく仰っていたことがとても印象に残っています。小佐々歯科診療所のシンボルマークとなっている地球のイラストが診療所に来る子ども達にも人気だそうで、子ども達と向き合って働きたい方にとっては素敵な環境だと感じました。

【小佐々歯科診療所】
住所:京都市北区上賀茂桜井町105 森田ビル 2F 
TEL:  075-721-5511 
WEB:  http://www.kosasa.jp