学生が多く、一日中にぎわっている街が大阪の東大阪市にあります。今回、紹介するのは近畿大学から徒歩2分のなんごうや歯科医院の女性院長。子育てをしながら医院の改革を進めてきた南郷谷先生です。予防歯科に取り組んだお話や、人材育成に取り組む理由など、リワーキングでしか聞けない赤裸々なお話を伺ってきました。先生のライフストーリーとともにお楽しみください。

結婚後の順風満帆な日々が一転!?

大学卒業後、南郷谷先生は一般歯科で勤務していましたが、すぐに結婚退職。その後、2人の子どもに恵まれて幸せに過ごしていたとのこと。

早速ですが、院長になられたきっかけは?

「2人の子どもを育てながら、非常勤で父の歯科医院を手伝っていたんです。そんな矢先、突如、父が急病で倒れてしまって……。父の医院は昔ながらの歯科医院で、建物も古くお化け屋敷のようなところ。スタッフを探しても、さすがにそんな医院で働きたいって言ってくれる人はいないですよね……受付に小さな窓があったんですけど、窓を開け閉めして患者さんと会話するんですよ。ここで仕事をするにあたって、最初に私がしたことは、その窓枠をのこぎりで切ることでした(笑)。開放的な医院にしたかったので……」

見つけた新しい役割

今でこそ、“予防歯科”に力を入れる歯科医院は多いですが、なんごうや歯科医院では、20年以上も前から力を入れてきたと言います。“予防歯科”をスタートした当時はどんな状況でしたか?

「私が“予防歯科”を始めた当時、他の歯科の先生方から『虫歯があるから、歯科の仕事があるんだよ、予防歯科って何?』ていう声が多かったんですよ。診療で患者さんは、『やさしい先生のいる歯医者に通いたい』と仰いますが、本当に望んでいることは何だろうと考えたとき『虫歯にならない』とか『病気にならない・治療の必要がない』ことだと思いました。私だって、虫歯にも歯周病にもなりたくないですからね」

スタッフが友だちに自慢できる医院じゃないと

医院を引き継ぎ、予防中心の歯科医院に方向転換すると決めてからが大変だったと言います。

「当時は『悪いところもないのに、何で歯医者に来なあかんの?』と仰る患者さんに、『悪くならないように歯医者に行く』という新しい考え方を理解していただく必要がありました」

予防の知識や技術、患者さんへの啓蒙方法など、スタッフと話し合うことは山のようにありました。

「いきなりの方針転換で、当時のスタッフも不安だったと思います。ある日ふと、スタッフルームを見ると、部屋が狭すぎて、ゆっくり食事もとれないスタッフの姿を目の当たりにして……こんなスタッフルームで誰が気持ちよく働ける?って猛反省しました。スタッフが友達に自慢できる医院じゃないと、もう発展しないと思って……」

皆が働きやすい環境を整えることが必要と感じて、スタッフルームの拡張、そして医院の移転を決意します。チェアの台数も3台から5台へ。急激に変わっていく中、スタッフとコミュニケーションを取る必要性はさらに増えていきました。

「当時は自分の熱意を伝えていけば、人は動くと思っていました。時には仕事が終わった後、スタッフを我が家に連れて帰って夜中まで語り合ったり……。私は子育て中で、スタッフと飲みに行ったりできなかったので、家に来てもらっていたんです」

ある本との出会い

移転後、昔からいるスタッフに新しくスタッフが加わって、急激に人が増えて雰囲気も変わりましたか?

「やっぱり人が多くなると、いろいろあります。同じように伝えても、スタッフそれぞれ受け止め方も違いますし……予防歯科を普及させるとなると、スタッフと患者さんとのコミュニケーションも大切になります。頑張ろうと思えば思うほど、小さなトラブルがありました……」

移転後、「スタッフ・患者さんとのコミュニケーション」について、先生には悩んでいた時期がありました。そんな時、あることがきっかけで……

「あるスタッフが禁煙セラピーの本を読んで、たばこを辞めたんです。本に何が書かれているのか、なぜ彼女はタバコをやめるに至ったのかを知りたくて、私も本を読んだら見事に禁煙成功! 当時、1日1箱吸っていたんですけど(笑)それ以来、たばこが必要なくなりました(苦笑)」

自身の経験から、言葉の使い方やコミュニケーションの方法によって人の行動が変わると考え、コーチング、NLP*と「コミュニケーションの取り方」を一から勉強し直しました。言葉の力を理解した先生は3か月に1回は全スタッフと1on1での面談をスタート、各スタッフの能力を活かすために適性検査も導入しました。

「スタッフには、行動特性が分かるiwam診断テスト*を受けてもらっています。その人が選ぶ行動特性や考え方を知ることができます。これを導入してから、皆の成長が加速しました。また、スタッフ皆が個々の特徴を共有しているので、一人ひとりの個性を活かせるように考えてくれています」

※NLPとは、神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming)のことで、心理資格や能力開発のセミナーで活用されている心理療法です。

※iWAM(アイワム)とは「職場における動機づけと行動特性」のことで、個人が特徴的に使う言葉に着目し、認知科学を応用して、人の興味・価値観、動機を測定する総合適性検査です。チームビルディングのグローバルツールとして世界30カ国以上で活用され、IKEA、パイオニア、コカ・コーラ等の企業が導入しています。

1on1面談や、診断テストの活用など、力を入れて取り組んでいますが、そこにはどんな想いがあるのでしょうか?

「私は子供の頃から、人に助けてもらうことが結構多かったんですよ。できないことがたくさんあります。人には役割があり、人それぞれ得意なことが違っていると思うんですよね……私も院長という立場ですが、得意なことと、苦手なことがあります。だからこそ、スタッフにも“その人らしさを発揮して、得意なことをやって欲しい”と思っています。その方が仕事でイキイキと輝けるでしょ」

なんごうや歯科医院では、受付、歯科衛生士、助手の各部署に10年以上勤めるスタッフもいると言う。あえて聞きますが、ここで働くことについて、大変なことはありますか?

「私、無茶ぶりの天才ってスタッフに言われるんですよ(笑)不定期で、院内でプレゼン大会をやったり、日本語テストをやってみたり、通信教育で文章の書き方を全員で学んだり……。役に立ちそうなことを思いついたらすぐ実行しちゃいます」

「あとは、やっぱりうちは、“勉強”はしないといけないですよね。歯科衛生士も1年目から、先輩スタッフが歯周病治療を徹底して指導します。歯科助手も自分の言葉で患者さんにしっかり説明できるように教育します。成長はできますが、その分大変です」

スタッフとの関係

先生はスタッフとの関係性についても話してくれました。

「私、フランクな関係が良いんですよね。例えばスタッフが休みたいって時、休む理由をふつうね、建前で家族が○○とか、○○でとかいろいろ言っちゃうじゃないですか(笑)うちは、素直に彼氏とデートで休みたいって言ってくれるんですよね。急に彼氏が休み取れることもあるし……スタッフ皆にも正直に言ってゆずり合ってくれています。節度はもちろん必要ですけど、素直に言いたいことを言ってもらえることが嬉しいですね」

なんごうや歯科医院では、退職後も医院に遊びにくるスタッフさんもいると言う。先日の先生の誕生日には、約70名の新旧のスタッフさんが集まってパーティーをされたとか。ここで、改めて先生に聞きます。どんな人が、なんごうや歯科医院に向いていると思いますか?

「本来の「自分らしさ」を活かして働きたい人。仕事で成長したい人、楽しみたい人ですね」

取材部から一言

取材中、私達を楽しませてくれる先生のお話にあっという間に時間が過ぎました。冗談を言いながらも、『スタッフがやりたいことが見つかり、思う存分できるようにサポートしたい』と語る姿が印象的でした。今年中に、今のスタッフフルームを改装して、更に大きくされるとか。興味を持たれた方は、こちらから医院見学をお願いします。