皆さんは、「予防歯科」をご存知でしょうか? 歯科業界では、高齢化や医療費の増加で、虫歯や歯周病などにかかる前に予防することが注目されています。京都市内に3つの歯科医院を運営する、医療法人すみれ。“患者が生涯、自分の健康な歯で食事できることを目標”に、予防歯科に力を入れています。今回のインタビューは、歯科経営で最も重要と言われている「採用・人事」を担当する山沢さん。女性が働きやすい職場づくりに向き合う話を伺います。また、院長の大久保先生にも、“ヒトに対する想い”を伺いました。
プロフィ―ル
法人名:医療法人すみれ
名前:山沢 千秋さん
職種:事務長 仕事内容:人事・経理・院長秘書・受付
社歴:入職10年目
スマイルサポーターとして
まず最初に、入職のきっかけを教えて下さい。
「人と接する仕事がしたかったんですよ。就職活動をしていた時に、求人票の“スマイルサポーター”という名称に惹かれました」
医療法人すみれでは、患者さんの笑顔を応援する意味を込めて、歯科助手・受付の仕事をするメンバーを「スマイルサポーター」と呼んでいます。いつから、人事・採用の仕事を始められたのでしょうか?
「入社して3年目に歯科衛生士の採用活動からスタートしました。
元々は、スマイルサポーターでの入職。未経験だった他の業務(採用・総務・経理等)が増えていくにあたって、大変だと思うことはなかったですか?
「それは無かったですね。院長は仕事を任せられない人にわざわざ頼まないと思うんですよ。出来ると思って私に仕事を任せてくれるのですから、その期待に応えたいと、素直に思っていました」
採用業務や経理の業務もある中、今でも院内で受付に立たれることもあるとか?
「毎日入っている訳ではないのですが、今も受付に入ることがあります。すると、私のことを覚えて下さっている患者さんが声を掛けてくれます。10年前から来てくれている患者さんが声を掛けてくれたときは嬉しかったですね」
新しい仕事
明るく答えてくれる山沢さん。前向きに仕事を楽しんでいる様子が伝わってきます。とはいえ、新しい仕事を担当するときには、どうしても持っている知識だけでは分からないことがあったり、正しい選択が何なのかと悩んだりする時もあるそうです。
「私は、ほとんどの業務を本当に未経験の状態から始めているので、分からないことがあったらすぐ院長に相談しています。時には、業者さんにも教えてもらっています(苦笑)」
3つの歯科医院に所属する歯科医師以外の職員は、全員女性であるとのこと。だからこそ、職場環境について考えることもあったと言います。
「私が入職したときには、歯科医院で10年、15年働いている人をイメージできなかったんですよ。やっぱり結婚退職が多くて、定期的に人手不足になるんですよね。おめでたい、良いことなんですけど……」
退職があると、採用が必要になります。新人が入職すると、教育を大切にする風土がある分、その大変さを間近で感じていたと言います。
「組織として“教育”には本当に力を入れています。だからこそなんですけど、院長や先輩の歯科衛生士も診療を行いながら新人の教育にも時間をかけており、その大変さを昔から見ていました。どうやったら皆が長く働ける職場にすることができるんだろう、皆が長く働けば教育に割く時間も少しは減らせるんじゃないかと、ずっと考えていました」
医療法人すみれでは、新卒の職員が入職すると、「社会人としてのあり方教育」として、ビジネスマナーや仕事への姿勢を伝える座学研修を実施しています。歯科衛生士も、臨床の基礎からテクニカルスキルに至るまで、技術習得の機会を何度も提供するそうです。
オンとオフの切り替えの大切さ
「“働き方”という意味では、会社として本当に職員のことを考えてくれていると感じています。実は数年前、診療終了後に職員が自主的に勉強会を開いていたんですよ。でも『それ(残業してまでする勉強会)って、どうなの?』って大久保院長が言ってくれて、診療後にやるのではなくて業務時間内でやろうということになったんです」
これを機に3か月に1度、プレミアムフライデーとして勉強会の取り組みをスタート。月末の金曜日は午前中で診療を終え、午後は職員の勉強会の時間に充てていると言う。この日は業務自体を17時で終了させる。
プレミアムフライデーは東京の大手企業が導入しているイメージだったのですが、実際に取り組みを導入されて、スタッフの反応はどうですか?
「普段の診療の時間に勉強会をするわけですから、皆、意識は高いですね。ノー残業デーは嬉しいですし、テンションは上がりますよね(笑)」
長く働ける環境とは
山沢さんも2回の産休と育休を経験して、今は時短制度を利用して働いています。家庭と仕事の両立って大変じゃないですか?と失礼を承知で聞いてみました。
「いつも思うんですけど、私は欲張りなんですよ。家庭も、仕事も両方頑張りたいって思ってしまう(笑)。とはいえ、スタッフ全員に『結婚しても仕事も家庭も頑張つて!』なんて強要はしないですよ。『無理やり働いて!』って言っているわけじゃないんですよ(苦笑)」
「仕事も家庭も大切にしたい人には、その環境を提供したい」という院長の方針もあって、これまで5名の方が産休・育休制度を利用している。また、時短制度を利用する職員のために、フレックス制度も導入。
フレックス制度を利用する方は、どのように働いているのでしょうか?
「時短制度は、週30時間労働ですので、1日平均6時間働くことになります。シフト制(9:00~19:00の中で都合の良い時間を組み合わせた勤務)なので、午前半日のときもあれば、17時に退社するときもありますね。私は今、平均17時頃には退社しています」
心境の変化
採用の仕事を進めていく中、若手スタッフの“育成”
具体的にどんな取り組みですか?
「元々、院内では読書の習慣があったのですが、年に1回、スタッフに読書の感想文を原稿用紙にまとめて提出してもらっています。その中から優秀賞・最優秀賞を決めて忘年会の時に表彰しています」
珍しい取り組みですね。人材育成の一つとして始められたのでしょうか?
「そうですね。本から得られた情報を活用して行動に移して欲しいという意図があります」
「読書は、仕事を進めていく上で大切なことを沢山学べると思います。うちは全体で40人ほどの小企業です。大企業に比べたら一人ひとりが頑張らないと成長できません。院長がいないと決められない、回らない組織から、院長がいなくても回る歯科医院を今も目指しています」
山沢さんは、昨年から事務長へ就任。最近では仕事のやりがいも変わってきたと言います。
「患者さんが喜んでくれた話をスタッフから聞いたときが嬉しいです。そうしてスタッフが楽しく働いている姿を見るのが嬉しいです」
専門学校時代から知っている新卒の歯科衛生士のスタッフも多いそうで、未経験から入職して活躍する後輩の姿を見て、山沢さんも刺激をもらっていると言います。この医療法人すみれで、どんな人と一緒に働きたいのかを聞いてみました。
「仕事を通して“成長したい人”、仕事そのものに対してやりがいを求める人と一緒に働きたいです。うちには、仕事で輝きたい人が向いていると思います。人としても立派な人であって欲しいというのがうちの方針なんですよ」
山沢さんへのインタビューを一区切り終えたところで、院長の大久保先生も、診療が終わったようだったので、早速お話を伺いました。
これまで山沢さんのお話を伺ってきて、職員に対する“想い”を感じました。ここまで教育に力を入れられることになったきっかけを教えて下さい。
「当初は自分の目の届く範囲でスタッフを育成していたのですが、気づけばスタッフがどんどん増えて、個室診療も始めて、自分の目が届かなくなってきました。そして、スタッフの教育や育成が必要だと感じたわけです」
スタッフが増えてきたということですが、医院の法人化や拡大については、昔から考えていたんですか?
「実は、法人化も拡大も考えていなかったんですよ。主人と私で一つずつ歯科医院を個人事業で経営して、ゆっくりと過ごせたらといいと思っていました。そんな中でも勤務医師が成長してきましたし、山沢や他の皆も10年以上働くスタッフが増えてきました。組織が小さいと、ステップアップが思い描けないですよね。スタッフが成長するには組織が大きくないといけない。そこで、スタッフに“成長のステージ”を用意したわけです」
「成長のステージ」ですか。それを用意しようと思うきっかけが何かあったんでしょうか?
「昔、とても優秀なスタッフがいました。どんどん仕事のノウハウは吸収するし、性格も真面目。毎月、昇給するような子でしたね。でも当時は、小さな個人事業の医院でした。できる人でも、小さな会社にいたらチーフぐらいにしかなれません……。だからとても優秀な子なのに、辞めちゃったんですよ。そしてその子は結局、自分でエステサロンを開業しました。当時の主人と自分がその子に活躍できる環境を与えることができなかったという悔しさは、やっぱり覚えてますよね。そこでスタッフに成長のステージを用意しようと決心しました」
取材部から一言
スタッフに“環境”を与えることが出来なかった後悔があるからこそ、「成長のステージ」を用意したい。実際に山沢さんのインタビューを終えたあとで、院長の大久保先生のお話を聞くと心に響きます。お二人の“ヒトに対するあり方”が誠実だからこそスタッフが定着して成長していくと感じました。改めて、私たちも「意義」や「あり方」を大切にしていきます。
【医療法人すみれ】 住所:京都市左京区田中大堰町21 TEL:075-707-2056 WEB:http://www.okubo-recruit.com/